50代60代で起業するときによくあるケースですが、事業を始めて間もない方の場合、売上見込みがしばらく無いので、役員報酬をゼロでスタートしようと考える方が多いようです。
仮に売り上げが上がらなくて、役員報酬が未払いになった場合でも源泉所得税は納付することになります。できるだけ長く事業を行いたい、リスクを少しでも減らしたいという方にとって、役員報酬をゼロする方法は常套手段とも言えるでしょう。
そこで気になるのが、「では役員報酬がゼロの場合、社会保険は加入するの?」という問題です。
今回は、役員報酬がゼロの場合の社会保険加入についてお伝えします。
目次
社会保険への加入義務について
ひとりで法人を設立した際、「ひとりだし、手間もかかるので、国民年金と国民健康保険でいいかな・・・」と安易に考える方もいらっしゃいますが、実はひとりで法人を設立した場合でも、「法人として」加入するという形になるため、原則として社会保険に加入する義務があるのです。
入らなくてもいいと思ってしまう理由としては、個人事業主の場合、従業員が5名以上いる場合のみ加入義務があるのですが、法人も同じだと勘違してしまうケースが考えられます。
なお、社会保険加入の要件は以下の通りですので、この機会に整理しておきましょう。
健康保険
社員は原則加入義務がある。常用的な雇用の場合、パートでも加入義務あり。
年金保険
社員は原則加入義務がある。常用的な雇用の場合、パートでも加入義務あり。
雇用保険
社員は原則加入義務がある。法人の代表者は加入できません。
労災保険
従業員を雇用した時点で必ず加入しなくてはいけません。
例外として社会保険に加入が出来ないケースがある?
先ほどからの説明で、「原則」社会保険に加入する義務があるということをお伝えしていますが、例外としては入れないケースがあります。
それが「役員報酬がゼロ」の場合と、「役員報酬が非常に少ない」場合です。
後者の場合ですが、健康保険料と厚生年金が給与から天引き出来ない場合に、社会保険に加入することができなくなります。
平成30年度(協会けんぽ 東京都 「平成30年度保険料額表」より)
東京都の健康保険最低料金が、40歳未満は2,871.0円、40歳から64歳が3,326.3円、厚生年金の月額最低料金が8,052.00円となっています。(会社と折半の場合)
つまりは最低でも役員報酬が月に12,000円程ないと加入は出来ないということになります。
社会保険に入れない場合はどうしたらいいの?
事業が軌道に乗っておらず、「自分の給料が払えない・・・、でも社会保険に入りたい」という場合、管轄の年金事務所で相談しても、加入を断られてしまう可能性が高いです。
1.健康保険
健康保険については以下の2パターンがあります。
- 国民健康保険に加入する
- 在籍していた企業で加入していた協会けんぽの任意継続をする
国民健康保険について
会社を退職した時に、社会保険の資格喪失証明書をもらい、お住まいの各市区町村の役場に行くと加入できます。(他の保険に加入していなければ誰でも加入可)
協会けんぽの任意継続について
実際に事業を始めたばかりの起業家に伺うと、それまで勤めていた企業で加入していた健康保険の継続を選択する方も多いようです。
特に扶養家族がいる方の場合はこちらを選択することが多いです。
社会保険では、年収130万円以内の家族・親族を扶養に追加することで、加入者1名分の保険料で、扶養家族の人数分の保険証を貰うことが出来ます。
しかしながら、国民健康保険には、そもそも扶養家族という考え方が無いので、家族で国民健康保険に加入すると、保険料が増えてしまうことがあります。任意継続の場合も保険料は別途計算され、会社員時代よりも高めになってしまうことにはなりますが、結果的に国民健康保険よりも安くなることがあるので、注意が必要です。
2.年金
年金の場合は、厚生年金を継続する・・といった方法がないので、国民年金に加入します。
「国民年金では将来受け取る年金の額が少なくなってしまうのでは?」
というように不安に思っている方は、公的年金制度の国民年金基金や、民間の個人年金などの活用を検討するとよいでしょう。
国民年金基金の場合、掛け金が全額所得税控除の対象になり、所得税や住民税が安くなります。受け取る年金も公的年金控除の対象となります。ただし、解約返戻金などの一時資金支給は行われません。
一方、民間の個人年金の場合、積み立てた金額に対し、最終的に受け取る金額が上回る可能性が高いです。また、所得税の個人年金保険料税制適格特約を付加した場合、生命保険料控除とは別枠で、個人年金保険料の所得控除が受けられます。
しかし、個人保険は、途中解約が可能です。その場合に解約返戻金が払い込み保険料を下回るというリスクもあります。
最後に
いかがでしたでしょうか。
起業して業績が好調な場合、社会保険に加入したほうが節税になる場合もあります。起業間もないと、「社会保険は保険料が高い」と思い込んでいる方もいらっしゃいますが、限られた資金を上手に活用するためにも、社会保険加入のタイミングは、しっかりと意識しておくべきだと思います。